お茶の科学(サイエンス)

お茶の種類とがん予防効果


静岡県立大学薬学部

中村 好志


 お茶の効能については古くから様々な保健効果が言われている。この一〇~二〇年の間に緑茶カテキンだけでも、がん予防効果、抗動脈硬化作用、抗アレルギー効果などに深く関わっていることが学問的に裏付けられるようになってきた。
 また、赤ワインや野菜に含まれるフラボノイド類の、いわゆる生活習慣病に対する保健効果の期待と相俟って、カテキンやフラボノイドを総称して言うポリフェノール化合物の効能解明は一段と加速されるものと思われる。
 今回、茶のがん予防効果について、茶葉の種類によってどんな違いが出てくるか、筆者らの研究成果を紹介しよう。世界的には、茶と言えば紅茶を指すが、日 本では、緑茶である。ところが一口に緑茶と言っても様々な種類の緑茶が売られており、飲み方も一様ではない。紅茶になると飲み方も国により一層と多様であ る。
 このようなことは誰でも知っているが、効能を考えるときに現状ではこれらのことは埋没してしまうことが多い。筆者はこのことに何かヒントを示すことができないかと考え、非常に泥臭いが次のようなことを試してみた。

お茶は種類によってがん予防効果が異なる
0002_01.gif  
 静岡県茶業会議所から緑茶のサンプルを分けていただき、前述のがん予防効果の基礎データを取ったことがある(図1)。
この調査は実際に飲む場合に、緑茶の種類によって効果にどの程度の違いがあるか調べたものである。九種の緑茶は「おいしいお茶の入れ方」に準じてお茶を入れ、それぞれ、標準的飲用量の茶碗一杯の効き目を比較たものである。
 発がんの初期段階に対する効き目を示す『抗変異活性』は、粉茶がもっとも強く、次いで釜いり玉緑茶と蒸し玉緑茶であった。次に、発がんの二段階目に対す る効き目を示す『抗プロモーション活性』は番茶がもっとも強く、次いで茎茶であった。また、番茶を焙じたほうじ茶には全く効果が期待できないことが判っ た。これは、『焼く』ことによってフリーラジカルが生成され、残っている茶成分の効果が相殺されてしまった結果と考えられる。総じて、番茶や粉茶、茎茶に 大きな効果が期待でき、庶民にはうれしい話である。

お茶は飲み方によってもがん予防効果が異なる
 緑茶と紅茶は、味や風味を別として、ポリフェノール類とビタミンCの存在形態が異なることが大きな相違点である。このような茶葉の違いや飲み方がお茶の がん予防効果に影響するだろうか。これまでに報告されている動物の発がん抑制試験や、筆者らによる試験管内のがん予防効果の基礎データからは、緑茶、紅茶 の熱湯抽出物に差異は見られない。
 そこで、胃がんを実験的に作る薬剤であるMNNGをラットに飲ませて緑茶、紅茶の熱湯抽出物による影響を調べてみると(図2)、 変異原性はあらかじめ緑茶を飲ませた場合に顕著に抑制されるのに対し、紅茶ではあまり強くないことがわかった。この違いをもたらすものはビタミンCであると考えられる。
 この実験は非常に示唆に富んだ結果で、お茶は飲み方によっても効き目が違ってくることを示している。よく、他県の方から「静岡の人はご飯の前にも、食べ ている間にもお茶を飲むんですね。普通は、お茶はご飯の後で飲むもんですが…」と言われる。静岡県の胃がん標準化死亡率が低いのはこの辺にも理由がありそ うである。0002_02.gif

(なかむらよしゆき)              月刊「茶」2000年2月号より