お茶の科学(サイエンス)

茶サポニンについて


農林水産省野菜・茶業試験場

山内雄二


 多くの植物に含まれる化学成分にサポニンと呼ばれる物質群があります。この成分の最大の特徴は界面活性剤としての性質を持っていることです。そのため ハーブの一種であるソープワートの様にサポニンを多く含む植物は古来より石鹸として用いられてきました。またサポニンの名前の由来も泡を意味する「シャボ ン(サボン)」であると考えられています。ところで近年、サポニンの研究が進展するに伴いサポニンの様々な生理作用が明らかとなってきました。その中には 人間の生活にとって有益な作用も含まれています。

茶葉サポニン
 緑茶浸出液の苦味および抹茶の起泡性に深く関与していると考えられている成分が茶葉サポニンです。茶葉サポニンは茶葉中に約〇・二%しか含まれておら ず、カテキンやビタミン等の他の有用成分に比べると極微量成分と言えます。ところが茶葉サポニンには「抗炎症作用」や「抗菌作用」があることが古くから知 られており、また近年、「血圧降下作用」や「抗アレルギー作用」等の興味ある生理作用も明らかとなってきました。これらの作用はあまり強くはありません が、カテキンの持っている作用を補うものと期待されます。
 この様に注目を集めつつある茶葉サポニンですが、現在のところ化学分析法が確立していないこともあり、あまり詳しいことは分かっていません。しかし茶種 あるいは品種別サポニン含量が明らかとなり、茶の苦味や機能性との相関関係が明らかとなることで、茶の品質評価に新たな項目が追加される可能性があり今後 の研究が大変期待されます。

茶種子サポニン
 茶樹の栽培は葉の摘採が目的であって花や実が顧みられることはあまりありません。昔は静岡においても茶の実から搾油した茶の実油を食用油や洗髪に利用し ていたようであり、現在でも一部地域では茶の実油から「茶の実シャンプー」を製造し販売しています。また、愛らしい形をした茶の実は様々にアレンジされ五 〇種類にも及ぶ茶の実紋を生み出し、古くから家紋として茶産地の生活と密接に結びついてきました。
 茶の実には油以外に一〇~一三%のサポニンが含まれており、この成分は搾油後の茶の実油粕からも取得することが可能です。この茶種子サポニンは茶葉サポ ニンとは化学構造が多少異なるためその物性や特性は互いに少し異なります。茶種子サポニンには古くから「去痰作用」や「抗炎症作用」があることが知られて おり、またゴルフ場における「ミミズ駆除」や水田における「ジャンボタニシ駆除」のためにも利用されてきました。「魚毒性」が多少懸念されますが、天然由 来成分である茶種子サポニンの環境にやさしい有効利用法として注目に値します。
 近年の研究により茶種子サポニンの新たな生理作用も明らかとなってきました。それらの中には「アルコール吸収抑制作用」の様に人体に有益な作用の他に、 酵母や植物病原菌に対する「抗菌作用」や「殺ダニ作用」あるいは「植物生長調節作用」など食品産業や衛生関連産業または農業関連産業など幅広い分野への応 用が期待される作用も含まれています。
 ところが残念なことに、日本の茶栽培の形態では花が咲きにくく茶の実もほとんど結実しません。また例え結実したとしてもその大部分は遺棄されます。しか し現在、農業人口の減少に伴い手入れの行き届かない放置茶園が増大しつつあります。そこで、この様な茶園を茶の実採取畑に転嫁し、未利用資源である茶の実 の有効利用化を図ることができれば、これら地域の活性化へ貢献できると共に茶の実成分研究者への大きな励みともなります。
 茶サポニンは古くて新しい研究テーマですが、我々は最近になりやっと茶葉や茶種子からの簡便な高純度精製法を確立しました。今後、茶サポニンが多くの方々に利用されることを期待しています。

(やまうち ゆうじ)              月刊「茶」1999年6月号より